神経科学、神経生理学分野での近年の主要な研究内容

超高密度電極 NeuroPixels Ultraを用いた大脳皮質細胞集団信号計測
(研究会発表) 安井怜、田中宏喜 (2026) 大脳皮質微小神経回路の信号計測と信号分離に関する研究

Neuropixels Ultra(NP Ultra)は,従来のプローブ(Neuropixels 1.0や2.0)と比較して,電極のサイズを大幅に小型化し,高密度に配置した神経活動記録のためのデバイスである.NP Ultraは, 5 x 5 μm2 の極小電極を6 μm 間隔で配置(8 x 768 )している.これにより,脳組織内の電気的活動を詳細な「画像」のようにとらえることが可能になった.
V1野には,さまざまな視覚応答特性,形態学的特徴,興奮・抑制のシナプス伝達特性をもつ細胞が存在するが,どのような細胞が配置,結合して,局所領域での情報処理が行われているのかについて高い空間解像度ではわかっていない.われわれはNeuroPixels Ultraを用いることで,マウスV1野の局所空間内の細胞集団の各細胞位置を,従来のスパイク計測よりはるかに高い空間分解能で可視化でき,これらの細胞の視覚応答特性を同定できた.今後,これらの細胞の神経結合を調べ,また光遺伝学とも組み合わせていくことで,そこでの情報伝達の詳細を明らかにしていく予定である。


光遺伝学を用いたマウスV1野におけるcoarse-to-fine様式の輪郭特徴処理の神経メカニズムの研究
(学会発表) Tanaka H. Abe M. and Yasui R. (2025) The role of intracortical inhibition to shape spatial frequency (SF) tuning and its dynamics in mouse V1. 48th Annual meeting of Japan Neuroscience Society (Neuro2025). 抄録へのリンク

粗いものから細かいものへ逐次的に処理をするcoarse to fine processingは、正確に効率よく特徴抽出できるアルゴリズムとして心理物理学や計算モデルなどで広く注目されてきた。V1野の多くの細胞は、最初に粗い輪郭を伝達し、その後細かい特徴を情報伝達していることが示されており、これがcoarse to fine processingに関与していることが示唆されている。われわれは光遺伝学手法を用いて、興奮回路と抑制回路が異なる役割を果たしながら、V1野の細胞が特定のタイミングで粗さの異なる特徴を正確に出力できる神経メカニズムを同定した。現在、その神経回路をさらに詳細に調べる研究をおこなっている。

コントラストに合わせて特徴の伝達様式を瞬時に調節し、画像情報伝達を最適化する脳の仕組み
(発表論文)Tanaka H. Sawada R. (2022) Dynamics and Mechanisms of Contrast-Dependent Modulation of Spatial-Frequency Tuning in the Early Visual Cortex. Journal of Neuroscience, 42 (37) 7047-7059. 論文へのリンク

脳視覚野の細胞は、画像が目に入った瞬間から40~100ミリ秒後の間に、その画像の特徴を伝達している。今回、これらの細胞が、画像のコントラストに合わせて、特徴の伝達の仕方をこの期間に調節していることを明らかにした。細胞は低コントラスト条件では粗い特徴に特化した情報伝達を行うのにたいし、高コントラストでは上述のcoarse-to-fine方式の情報伝達を行っていることを世界で初めて証明した。こうすることで視覚環境に最適な情報伝達を実現していると考えられる。


初期視覚段階における細胞集団の協調的な神経活動
(発表論文1)Tanaka H. Ohzawa I. Local organization of spatial frequency tuning dynamics in the cat primary visual cortex. Journal of Neurophysiology 124: 178-191 (2020) Abstractへのリンク


(左)各細胞のチューニングの時間変化 自動再生 (右) 細胞集団のチューニングする方位(縦軸)、空間周波数(横軸)の重ね書き.最適空間周波数が時間とともに多様化していきます。 マウス右クリックでで再生してください。

(発表論文2) Tanaka H, Tamura H and Ohzawa I. Spatial range and laminar structures of neuronal correlations in the cat primary visual cortex. Journal of Neurophysiology 112(3): 705-718 (2014) Abstractへのリンク